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By always thinking unto them. ~「たまこラブストーリー」雑感 [四方山話]

苑ブログのスペースを一個人として借ります。貸してください。
普段、ここへは無理矢理にでも平沢もしくは音楽ネタに絡めてから提出しますが、
さすがに今回ばかりはこじつける要素を見出だす気も起きぬほどまったく関係ない。
しかしそれでもどうしても書き留めて置きたいこの衝動。
私にとってこういうものを吐き出せる場所が今はないのを痛感しつつ。


GW公開の劇場アニメーション「たまこラブストーリー」を見てきました。
TV版「たまこまーけっと」にきっちりとケリをつけた、王道すぎて万歳したくなる青春恋愛映画。
これで終わっちゃうんだなあという寂しさも味わいましたが、それはそれ。
見てる途中から感想がとめどなく溢れ出てくる衝撃を受けてしまい、
しかもそれがネタバレ前提のものばかりなので、自分でも困惑してるところです。
ほんとは見た人とトコトン語り明かしたいんですけど、そういう友達もいないのが難点。

そもそもまず、どんな映画なのかという疑問は公式サイト、
その見どころはどこなのかという点はネタバレなしの解説ブログを、それぞれご覧ください。
たまごまご氏がおっしゃる通り、「もう何にも知らなくても楽しめる。」です。
もう、GWにおヒマがあるなら、ぜひとも劇場に足を運んでいただきたい。

『たまこラブストーリー』公式サイト
http://tamakolovestory.com/
「たまこラブストーリー」が、傑作だと確信できたのはなぜか - たまごまごごはん
http://d.hatena.ne.jp/makaronisan/20140426/1398523055


なので、ここから先は映画本編を見た後の感想物置です。
ちょっとだけ語らせてください。













[たまこに不在の「絶対的な存在」]
話が動き出す、河原の飛び石でのもち蔵の告白シーン以降、
絶対的に頼れる寄り添える相談相手がたまこには欠落している点が表に出てきます。
普通ならこういう場面での役割はお母さんなんでしょうが、
ひなこさんがいないことが大きくのしかかる。
お母さんを早くに亡くしてから背伸びして大人を目指してった、たまこの弱いところが描かれる。

「たまこまーけっと」で身近な大人的存在だったデラちゃんは南の島に帰っちゃったし、
家族であっても、親父さんやお祖父さんは異性的な距離を置いて見守ってるし、
小学生のあんこじゃあまだまだ役不足、そもそも姉の方で一方的に格下の子供扱いしてる。
友達の三人娘にはこの問題は身近過ぎるし、その中でもみどりはかなりジョーカー的な存在。
擬似家族的な商店街のみんなにもこんなこと言えない。もち蔵もその一員だから。

お母さんが逝去して以降、たまこの精神的な拠り所はおもちでした。
「まーけっと」に限らず、この劇場版での前半でもふんだんに表現されて
告白シーンの手前まで、河原で拾った小石をおもちに見立てていたり。
でもそれって、別の視点から照らすと、母を亡くした寂しさを風化させるためなんですよね。
だからこそ河原のシーンでの独白は、
それまでのたまこの世界観を端的に吐露させて意識付けるほど強力に表されてるんでしょう。

もち蔵からの告白の直前に、おもちの象徴として描かれた小石を失い、
心地よく永遠に続くだろうと漠然と思っていたたまこの世界は急転回して
これまで想像もしなかった感情が溢れ出してくる時に、寄り添える存在はなく独り。
中盤Bパートへの転換点です。
そして中盤で様々に揺れ動く想いをうまく受け止められずにもがくたまこに手を差し伸べて
終盤へと橋渡ししてくれたのは、やはりお母さんでした。


[男の子達と女の子達とジョーカーみどちゃん]
たまこともち蔵、お互いの思いをうまく受け止められなかったところから始まる微妙な空気。
その二人を支えるのはお互いの友達なのですが、
男女の友情差の描き方が、さすがもう巧いなあと思いました。
戦友的に傷ついた友をそっとかばう男子達と、
友の変化を機敏に抱きしめて秘密を共有しあう女子。
そして彼ら彼女らの中で一番、友情以上の感情を持ってるみどり。
このお話のキーパーソンは間違いなくみどりです。

みどりが火をつけてみどりが扇いでみどりが消火する、見事なマッチポンプ。
というより、みどりがいなければ、二人はあのままの関係で
高校生活を終えて一生過ごしてしまうんじゃないかと心配になるくらい。
みどりがあの二人の少年少女期から青年期への橋渡しをする役割なのか。

私が気になって注目した点はみどりの瞳孔です。
とても表情豊かに収縮してその度に話の流れを表現してる。
その動きが巧みで二人の間に言葉少なに介入するみどりの感情が溢れ出てる。
いかようにも読み取れる曖昧な仕草の映像表現には打ち震えました。
ひとつ言えるのは、みどりはたまこともち蔵と自分との
いびつで三角な幼なじみの関係を、三人の中で一番大事にしてるんだと。
ところで私は、根っからのみどりもち蔵片思い説支持者だったんですが、
2chのたまこスレで意見交換してるうちにとても有意義な解釈を聞けて
ようやく自説を捨てることができました。
持論をぶつけ合って確認し合えるのは単純に楽しい。


[史織とたまこを結ぶ「すごい!」のキーワード]
メインストーリーをなぞるだけじゃなくて、時系列を確認しながら見たり
主人公以外の登場人物の視点に立って見つめると
新たな発見がポロポロ出てくるのが山田尚子監督作品。
このお話の影の主人公がみどりだと言うのは
既に鑑賞された人達の中に於いてもかなり主導的な意見ですが、
史織さんの視点に立って話を見るのも、とても興味深くありました。
とはいってもたまこ達とは部活も違い、みどりとかんなに比べると登場頻度も少ないですが
それだけにたまことの会話は印象的でもあります。
この二人の会話で出てくるのは「すごい!」という感嘆符。
数回出るたびにどれも意味合いが違っていて、二人でラリーしあうたびに重要性が増してくる。
最後の「すごい!」ではハッと思わせられました。

それに、たまこまーけっとではデラちゃんやたまこが史織さんに色んな思いを伝えたのに対比して
今回は史織さんがたまこにとても大事なことを気づかせる、そんな関係になってたのが
お互い成長した証なのかなあと、ぼんやり青春映画を楽しませてもらいました。


[うさぎ山商店街は変わらない]
商店街の人々は二人の変化を見つめるでもなくちょっかい入れるわけでもなく
いつもと変わらない接し方で、でも二人がちょっと吐露した変化を受け止めて、
大人の大局観で見守っていく。
たまこともち蔵みたいな恋愛劇を、商店街の一人ひとりがそれぞれ積み重ねて
大人になっていったと思うから、大人はそんな見守り方ができるんだと感じるもんです。
それをたまこが受け止めて心境を変化させてったのは劇中の通り。
なんか、私もそういう大きな大人になれれば良かったんですが。
大人はたぶん、主人公格の高校生達よりも、
商店街の人達やたまこもち蔵の親などの大人たちに感情移入する方が多い気がする。


[りんごと万有引力と]
冒頭での豆大と吾平のケンカを見つめるもち蔵が手にしてたりんご。
その後もいろんな形を取りながら、りんごはEDまで出てきます。
山田監督お得意の手法だし、何か意味が込められてるのは間違いないんだけど、
禁断の果実ってほど踏み込んだ関係ではないし。
はて、それでは一体どういう意味なんだろう?

…とモヤモヤしながら情報収集をしていたら
同じように疑問に思ってた冒頭の英文について、こんなお話を伺いました。

> >英語の名言・格言
> >By always thinking unto them.
> >- Isaac Newton (アイザック・ニュートン) -
> >年がら年中、そのことばかりを考えていただけです。
> そのニュートンの代表的著作が「プリンシピア」だ
(2ch@アニメ2板 たまこまーけっと Ωおもち95個目スレより)

うあああああ。大納得の膝ポンとはこのことだ。
最初に大きく映しだされる地球と月。
もち蔵の手を離れ、カウンターから落ちるOPのりんご。
きぐるみムービーの中で吊るされてるりんご。
かんながたまこに示唆する、N極とS極で引き合いS極とS極で反発する磁石。
重力を無視するかのように浮遊してたまこに届くEDのりんご。
これでもかと表現されてたのは、不器用に惹かれ合う二人を示唆するシンボルだったとは。
しかも「年がら年中、そのことばかりを考えていただけ」だなんて
もち蔵そのものじゃないですか。掻きむしりたくなる。


[ラストショット]
終劇間近、たまこがもち蔵を追っかけるクライマックス。
ラストショットの、糸電話を受け止めてうつむいてから
きりっと見上げる直前に両腕の下から見せる、たまこの決意の表情。
私にとって、これが今回の映画でのたまこベストショットです。
この顔を最後に持ってくるか!

そしてエンディングで表現される二人の影を見た時は
もう、こんなに綺麗に完結させられては拍手するしかないだろ、と万感の思いでした。
でもほんのちょっと寂しい。
作品としての二人の将来と商店街の群像劇がもう少しだけ見たかった。
切なくなるくらい完全なフィナーレ。



たまこ製作チームの前作といえば、ご存知「けいおん!」ですし
偉大な前作と今作との対比についても感想がいくつも湧き出してくるんですが
うまく言葉にまとめられません。もっとしっかり両作品を見てみたい気分です。

溢れる感想を文章に落として、なんとなく落ち着いた。
個人的には「たまこまーけっと」のファンタジック日常コメディが好きで
放映当時に毎週欠かさず見てて、今でも大切な作品の一つなんですが、
前作と比較されがちなのが、ちと残念でもあり、
再評価される日が来ないかなあ……と気にしてたんです。そのことばかり。
まさか劇場版が作られるとは思いもしなかったので
それだけでもうれしいニュースでした。
そして劇場に足を運んだら良い意味でこんなにショックを受けられるとは。
大好きな忘れられない作品が一つ増えました。

ツイッターなどでの評判も上々みたいだし、劇場客数も好調っぽいし、
配給元が満足できる興行収入を得られれば嬉しいな。
(上映劇場が少なめなのがちょっと寂しいんですけどね)
そしてなにより、山田監督の次回作が楽しみすぎて仕方ありません。
こういう感情の一つ一つが積み重なるから、人生ってきっと楽しい。

映画『たまこラブストーリー』主題歌 「プリンシプル」

映画『たまこラブストーリー』主題歌 「プリンシプル」

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
  • 発売日: 2014/04/30
  • メディア: CD


コメント(2) 

コメント 2

Tj

はじめまして。
たまこラブストーリー冒頭の、『By always thinking unto them.』を調べていたところ、このブログにたどり着きました。
詳細な考察を拝見し、この物語についてより興味深くなり、何度も何度も見返したい、と思うようになりました。
非常にすばらしい映画でしたね。
私は、デラの不在がキーだったように感じました。映画後にTV版を見ると、彼の存在が何倍も大きなものに見えました。人の気持ちを汲んで、されて嬉しい事を進んで受け入れる紳士のデラにこの物語を教えたら、なんと言うんでしょうかね。
このことも併せて、あまりにも完璧なラストに、私はものすごく寂しくなりました。ジフさんの”ちょっと寂しい”という感想を、非情だ、と思ってしまい、大変申し訳ありません(笑)
長くなりましたが、様々な感情を引き起こしてくださる素晴らしい考察をありがとうございました。
by Tj (2014-07-20 08:43) 

ジフ

Tjさん>
はじめまして、熱いコメントを誠にありがとうございます。
例の英文で検索するとかなり上位に出てくるんですよね、この記事。
ちょっと前に気づいて枕を抱えて転げまわりました。

劇場を飛び出したあとに街をフラフラさまよってしまうほどの喪失感でしたが
帰り着き感想を咀嚼して少し感情制御出来たあとの状態が
「ちょっと寂しい」だったということで、どうぞご容赦ください。
今はサントラやコンピアルバムを聞きながら
ブルーレイの発売日を心待ちにワクワクしてるところです。


とても素晴らしい青春恋愛映画でした。
たまこまーけっとは毎回楽しく見てて、
でも二期はないだろうな…と半ば諦めてたら、昨年末でしたか、
劇場版製作中!という望外のニュースが飛び込んできて
それ以来、ワクワクしつつ前売りチケットを買ったりしましたが
しかし完全新作というけどどんな出来栄えなんだろうか、と期待半分不安半分で
前情報にはそんなに触れずに封切り日を待ってたんですが、
初日に見に行ったら溢れ出るほどの衝撃を受けてしまいました。

自分の中の衝動と感想を整理して消化する目的で、
勢いに任せて書いた文章をそのまま公開してしまったものでして、
夜中に書いたラブレターみたいな恥ずかしさたっぷりで恐縮ですが、
それもこれも含めてたまこラブストーリーの感想文なのかな、とも思います。
たぶん、いろんな前知識を仕入れてから見に行ったら
こんな文章にならなかったでしょうね。


デラちゃんにたまこともち蔵が付き合う成り行きを話したら
「お前たち、そんなに回りくどいことをしてたのか?」と
まず悪態をつきそうです(笑)そのあと少し大人になった二人を
デラちゃんの立場で褒めたり評価したり。
放送時はトリックスター的な印象が強かったんですが、
TV版を見直すとデラちゃんがほんとに紳士で大人なんですよね。
要所要所で登場人物への助言を発する役目は星とピエロの邦夫さんにもありますが
邦夫さんは引いて見つめてるのに対してデラちゃんは積極的に押し進める。

おそらく(当たり前の話ですが)山田監督は今回の映画版に際して
幾通りもの様々なプロットを練られたんだと想像します。
ご本人の口からも語られたような南国編や(これはこれで見たかった)、
たまこともち蔵のラブストーリーにしても二人に関わる人物の登場選定など、
誰に焦点を当てるのか、誰が必要で誰を外すのか。
そんな中で強力なパワーで話を動かせる大人のデラちゃんがいたら
彼がキーポイントを持っていく、などの理由でプロットが集約したのかな、と
監督演出視点で想像するのも楽しかったです。
ブルーレイの付録、名場面絵コンテ集とのことですが
映画けいおんのように絵コンテ全編集が見たかったなあ…。

繰り返しになりますが、コメントありがとうございました。
自分の残したものに対して感想を頂戴できる機会というのが
あまりありませんのでとても嬉しいです。
by ジフ (2014-08-04 03:49) 

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更新 2014.04.06更新 2014.05.24 ブログトップ

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